日本神話の源流 吉田敦彦
週末にブログの続きでも書こうと思ってたけど実は明後日締切があるのでまた次回
— ぐぬ (@gnunununu) 2018年5月12日
折角有言実行から始めたブログなのでこれを旨としたいと思います。きっと余裕さえあれば週1くらいで何か書けるだろう。そう思っていたので締切も乗り越えた今日書きました。Descartesは…気が向いたら続きます。
この本は講談社学術文庫だから多分1年くらい前に大学の書籍部で面陳列されているところを見つけて購入したような…刷られた時期(17年7月)からも正しそうには思える。というのも、去年末に一度半分くらい読んだところであろうことか無くしてしまって最近Amazonで再購入したので、本棚のどこに置いてあったかもわからなくて*1
内容は比較神話学で、タイトル通り日本神話の成立を主題として、類似した神話を比較して共通項を見つけ出すことでその源を推測した研究成果です。ギルガメッシュを召喚できれば調査することもなく証拠を物で出してくれるだろうに。日本の場合は歴史時代が古墳時代から少なくとも1700年程度あって、記紀神話から数えても1300年分の蓄積があるので、四大文明ほどではないにせよ比較することで神話の類似だけでなく民族移動についてもいくらかわかることがありそうなわけです。
まず先行研究として、先史時代においても日本は
の幅広い民族と交流があったことが定説のようです*2。言語の面からもアルタイ語族、オーストロネシア語族の影響が示唆されるのだとか。その結果、
の少なくとも5種類の異なる文化の流入があった可能性が岡正雄氏によって指摘されているらしい。この仮説の正しさはともかく、語彙や道具、建造物など現代にも残った証拠から複数の集団が日本に渡ってきていることは確からしい。
複数の民族が日本列島という一つの領域に定着したからには、その民族たちが持っていた伝承・伝説が混交した結果として現在知られている日本の神話が存在するはずで、さらにその根拠はそれぞれの民族の母集団から分布していった他の集団が残した伝承との比較から明らかにされるはず、というのがこの本の主題です。
実は読みながら思っていたことは大半が第5章「ギリシア、スキュタイとの比較」で紹介されてしまったので感心する他ないのですが、例えばイザナギは死後冥界の住人となったイザナミを取り戻しに行くも、イザナギは既に冥界の食べ物を口にしたため現世には戻れず、イザナミが冥界の主に交渉しようとしたにも関わらずイザナギが腐ったイザナミの姿を見てしまったことで彼女の逆鱗に触れ、結局イザナミは冥界に落ち着いた、という話がありますが、マオリの神話にも妻を冥界から連れ戻そうとするも失敗する神話が存在するそうです。…オルフェウスとエウリュディケ、さらにペルセポネの神話と似てますよね*3。ユーラシア大陸の東西の端で同じような冥界の神話が見つかり、さらに著者曰く夫の失敗で妻が戻れなくなる神話は旧大陸にはこの2つしか見つからないので、この類似は偶然ではないのではないか。
ー2章と5章の内容を単純に並べるとぱっと見似ている部分を継ぎ接ぎしているだけなのか正鵠を射る意見なのかわからなくなりました。一応ポリネシアの神話について冥界下りだけでなく2章で島釣り、国生み、4章でヒルコと、イザナギ・イザナミに関連する複数の類似を指摘することで主張を補強しているようでもありますが、著者としては冥界下りはポリネシアよりもギリシアの神話との類似が本質的だと考えているようです。何よりもギリシアではエウリュディケとペルセポネに分かたれてはいても、冥界の支配者が元は地上の神だったという点も共通している。その他オオゲツヒメ、ウミサチ・ヤマサチとコノハナサクヤヒメ、天の岩戸などの神話が東南アジア、中国南東部の神話との間に多くの類似を持ち、アマテラスとスサノオの誓約から生まれた三女神*4とデメテルがポセイドンに孕まされた子供にも類似を見出しーー列挙に特に意味はないのでこのあたりでやめます。記紀神話の時代に既に広範な神話が混合しているようです。上に挙げた他にはスキュタイ、オセット人、そして勿論韓国の神話との関連が見つかるのだとか。
日ユ同祖とまで言い始めると証拠が怪しいので疑いの目を向けざるを得ませんが、歴史時代の始まりからユーラシア中のかなり広い範囲で民族同士の交流があったことは立証されていると思って良さそうです。そういえばJared Diamondもそんなことを言っていましたっけ。
神話そのものの経時変化を追えればまた新しいアプローチが可能になりそうですが、それには『過ぎ去りし日々の光』のワームカムが必要だ。